上記被告人に対する常習累犯窃盗被告事件について,弁論の要旨は,下記のとおりである。
記
1 結論
窃盗罪(刑法235条)の累犯(同59条)として,罰金刑を科するべきである。以下,理由を述べる。
2 盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律3条は違憲無効
盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(昭和5年法律9号,以下「盗犯等防止法」という。)3条は,憲法14条1項及び31条に反し,無効である。
(1)憲法14条1項違反
窃盗の累犯であれば,法定刑の範囲は,刑法235条,59条,57条,12条1項により,懲役1月以上20年以下又は50万円以下の罰金刑となる。ところが,常習累犯窃盗になれば,いくら被害金額が小さく,更生意欲が旺盛で施設内処遇を要しない場合でも,罰金刑を選択できず,「三年以上ノ有期懲役」(盗犯等防止法3条,2条)となってしまう。「常習」ゆえに重く処罰するという目的が正当であるとしても,罰金刑がなく,また,3年以上の有期懲役しか選択できないことは,常習累犯窃盗の事案に応じた刑罰という目的達成の手段として不合理に重いと言わざるを得ない。
したがって,盗犯等防止法3条は,窃盗の累犯に比し,その処罰が不均衡に重きこと不合理であり,憲法14条1項に反する。
(2)憲法31条違反
また,憲法31条は,刑罰を科する手続の法定及び適正のみならず,刑罰の実体の法定及び適正まで保障するものであるから,実体の適正の内容として「罪刑の均衡」の原則を含むものである(芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第六版』2015年,岩波書店,243~244頁)。
盗犯等防止法3条は,いくら被害金額が小さく,更生意欲が旺盛で施設内処遇を要しない場合でも,罰金刑を選択できず,「三年以上ノ有期懲役」(盗犯等防止法3条,2条)とするものであるから,事案に均衡した刑罰を実現するものとは言えず,重きに失し,「罪刑の均衡」の原則に反するがゆえ,憲法31条に反する。
(3)したがって,盗犯等防止法3条は,憲法14条1項及び31条に反し,無効である。
3 盗犯等防止法3条を本件で適用することは違憲
たとい盗犯等防止法3条が違憲無効でないとしても,被害金額が小さく,被告人に更生意欲が旺盛で施設内処遇を要しない本件において適用することは,後述の情状をも合わせ考えれば,重きに失し,憲法14条1項及び31条に反する。
4 被告人に有利な情状
(1)犯情における被告人に有利な事実
(2)一般情状における被告人に有利な事実
以下略。